教員の資質として、学習指導とともに生徒指導の分野で求められるものが非常に大きくなっています。それは、現代の子どもたちがそれだけ多くの課題を抱えており、そのような児童生徒を的確に理解し、関わるには高度な実践力が必要になってきているためと考えられます。ここ数年、不登校、いじめや問題行動、また発達障害など特別なニーズをもつ児童生徒への対応について、地域や保護者から教員に向けられる期待も高く、社会的な要請も高まっています。

本コースは、このような課題に対し、学校現場における生徒指導力の向上をねらいとして、多様な問題を的確に把握し、様々な視点・留意点を踏まえた対応策を主体的・具体的に立案できるような教員の育成を目的としています。そのため、本コースでは、現職教員が現在抱えている課題を中心とした事例研究や実際に学校現場や様々な関連施設に出向いて行うフィールドワーク、具体的な支援策について各自が立案していくシミュレーションなどを重視しています。

また本コースでは、複雑でとらえにくい現代の子どもたちの思いを深く理解し、支援していくために、臨床心理学の視点やカウンセリングの技法等を取り入れた授業などを実施し、それぞれの領域の第一線で活躍し、実際に子どもたちや教員と直接関わっている、京都教育大学、京都産業大学、佛教大学の研究者教員や実務家教員が担当します。

望ましい集団づくりの実践と課題
児童生徒理解の理論と実践
教育相談・特別支援演習
生徒指導充実のための学校内外の連携
生徒指導力高度化実践研究Ⅰ
生徒指導力高度化実践研究Ⅱ

  • 芦田 有一

    あしだ ゆういち

    京都教育大学・准教授
    京都府教育委員会

    京都府教育委員会より派遣。静岡県の公立小中学校教員として8年間、京都府の公立小学校教員として21年間勤務。学級担任、学年主任、生徒指導主任、研究主任、教務主任、教頭を勤めた。現在京都府総合教育センター主任研究主事兼指導主事として、小学校の初任者教員の教科教育講座や特別活動・生徒指導の研修講座を担当する。授業では、多様な他者と関わり合い、新たな価値を創造的に生み出す子どもたちの育成を支える教員として、資質・能力の向上が図られるよう努めたい。

  • 安達 知郎

    あだち ともお

    京都教育大学・准教授

    学校における心理臨床学の応用について研究している。具体的には、学校場面における心理教育(特にアサーション)の活用、心理臨床学的知見、技能などの学校場面への応用について研究している。実践活動としては、これまで、約10年間、宮城県、青森県の小学校、中学校、高等学校でスクールカウンセラーとして勤務してきた。また、同じく約10年間、民間の心理療法室でカウンセラーとして勤務してきた。現在は民間信仰(特にシャーマニズム)と心理的ケアとの関連などに関心を持っており、「心理臨床という営み」を「文化」という視点から考えたいと思っている。
     主な論文に、『アサーショントレーニングとシステム論的支援を組み合わせた学校臨床事例』(心理臨床学研究、2018年)、『教員は心理教育実施をどのように体験するのか-修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて-』(心理臨床学研究、2013年)などがある。

  • 角田 豊

    かくた ゆたか

    京都産業大学・教授
    生徒指導力高度化コース主任

    臨床心理学、学校臨床心理学を専門にしている。「共感」をテーマに、カウンセリングや心理療法といった臨床場面における共感研究と、人格特性としての共感性の調査研究を行ってきた。コフート(Kohut,H.)に始まる精神分析的な自己心理学の観点を基本に据え、自己-自己対象関係、間主観的な関係性のあり方に関心をもっている。教師と児童生徒間の相互交流・かかわり合い・関係性をキーワードに、教師・学校の「学校臨床力」の向上に関心を持っており、教師の省察、プロセスレコード、事例研究会・ケース会議のあり方について研究を行っている。その他には、箱庭療法を用いた教師の自己理解のための体験学習や、少年院などにおける非行臨床についても関心を持っている。
     主な著書に『共感体験とカウンセリング』(福村出版)、『カウンセラーから見た教師の仕事・学校の機能』(培風館)、『子どもを育む学校臨床力―多様性の時代の生徒指導 教育相談 特別支援―』(共編著:創元社)、『生徒指導と教育相談-父性・母性の両面を生かす生徒指導力-』(編著:創元社)、『ポスト・コフートの精神分析システム理論―現代自己心理学から心理療法の実践的完成を学ぶ―』(共著:誠信書房)、『臨床的共感の実際(バーガー著)』(共訳:人文書院)、『自己心理学入門(ウルフ著)』(共訳:金剛出版)、『自己心理学の臨床と技法(リヒテンバーグ他著)』(共訳:金剛出版)がある。

  • 片山 紀子

    かたやま のりこ

    京都教育大学・教授
    副研究科長

    教室における規律形成のあり方や方法、それに付随する学級経営の方法、学校としての生徒指導体制を研究テーマとしている。専門は、アメリカの生徒懲戒制度で、体罰や停学・退学および生徒懲戒リスク等についての研究をこれまで行ってきた。現在は、どのように生徒指導で21世紀型能力を育むのかについて研究を行っている。
     著書に『三訂版 入門生徒指導』(単著:学事出版)、『教育の社会・制度と経営』(共著:ジダイ社)、『教育のための法学』(共著:ミネルヴァ書房)、『アメリカ合衆国における学校体罰の研究‐懲戒制度と規律に関する歴史的・実証的検証‐』(単著:風間書房)、『やってるつもりのチーム学校』(共著:学事出版)、『知ってるつもりのコーチング』(共著:学事出版)、『できてるつもりのアクティブラーニング』(共著:学事出版)、『深い学びを支える学級はコーチングでつくる』(共著:ミネルヴァ書房)がある。

  • 佐古 清

    さこ きよし

    京都教育大学・教授

    京都府公立中学校の教員として37年間、内14年間を管理職として勤務。その間に市町教育委員会指導主事兼課長補佐、京都府山城教育局人事主事、京都府教育庁指導部首席総括指導主事として教育行政に携わり、児童生徒の学力向上や貧困の連鎖を断つための「学力の下支え」などに注力した。学校では、教職員がエンパワーし合って同僚性を高め、子どもたちが安心して学び合える学校づくりに努めた。生徒指導や特別活動はもとより、日々の授業をとおして子ども同士の良好な関係づくりや集団づくりに取り組むことで、一人一人の成長を促し、同時に「主体的・対話的で深い学び」の土台となる学習集団を形成できると考える。そのための理論や具体的な手法を学校現場と連携しながら研究・指導に当たる。
     著書に『格差をこえる学校づくり』(共著:大阪大学出版会)がある。

  • 新谷 幸三

    しんたに こうぞう

    京都教育大学・准教授
    京都市教育委員会

    京都市教育委員会より派遣。30年間京都市の公立中学校教員として勤務する。教諭時代は美術科教員として教科指導が最大の生徒指導と捉え「面白くてためになる授業」をテーマに掲げ教育実践を行ってきた。多種多様な困りや課題を抱える生徒たちに対してきめ細やかな指導を心掛けてきた。
     教頭になってからは特に社会に開かれた、地域の中にある学校を意識し、その学校経営全般に参画した。また現場では若手教員や新任者の育成に携わる機会も多く「成熟した社会人」としての教師の育成を目指した。大学院連合教職実践研究科では「理論」と「実践」の融合がよりよく生かされるよう、これまでの経験を活かし関わっていきたい。そして、これからの時代に求められる人間味溢れるたくましい教師の育成に努めたい。

  • 永尾 彰子

    ながお あきこ

    京都教育大学・准教授
    京都府教育委員会

    京都府教育委員会より派遣。現在京都府総合教育センターに勤務。研究主事兼指導主事として、不登校等の児童生徒及び保護者との教育相談や教育相談についての研修講座などを担当している。授業では中学校での勤務経験を生かしながら、子どもたちの心の理解の深化を図り、教員に求められる実践的指導力の育成に努めたい。

  • 村岡 徹

    むらおか とおる

    京都教育大学・教授

    主として京都市立中学校に勤務した教員生活38年間の内には京都市教育委員会人権教育企画課指導主事、学校指導課首席指導主事として、同和教育の推進、学力向上、学校経営の支援等、教育行政の一員として学校教育にも関わった。
     学校指導課では学校統合による新たな義務教育学校の開校に向け、教育企画推進室長として、9年間を繋ぐ教育課程の編成、統合人事等に携わり、開校とともに校長として小中一貫教育の推進に当たった。小学校と中学校との学校文化の異なりを体感しつつ、継承すべきこと、融合すべきことを意識して学校経営に取り組んだ。
     京都市は「一人一人を徹底的に大切にする」ことを教育理念に掲げており、最初に校長を務めた中学校では「自己を確立し、他者を尊重する精神を備え、創造的で個性豊かな人間形成を目指す」、そして小中一貫教育校では「意欲をもって学び、自らの将来を拓く児童・生徒の育成」を学校教育目標とし、教育改革の渦中にあって将来の社会人として備えるべき資質・能力の育成を目指した。
     本学においてもこれらの経験知を伝え、子どもたちの心に響く教師の育成に努めたい。

  • 盛永 俊弘

    もりなが としひろ

    佛教大学・教授

    「教室の様相の多様化」による学校現場の喫緊の課題を解決するため、科学的根拠(エビデンス)と解決志向的なアプローチを重視した実践的な研究を進めている。
     経歴は、長岡京市教育支援センター教育相談員・適応指導教室指導員、京都府乙訓教育局総括指導主事・人事主事、文部科学省国立教育政策研究所情報統計官、京都府公立中学校長、京都大学大学院教育学研究科特任教授など。現在、長岡京市教育委員会教育委員、学校心理士・ガイダンスカウンセラー。
     著書に『子どもたちを“座標軸”にした学校づくり―授業を変えるカリキュラム・マネジメント―』(単著:日本標準)、『学びを変える新しい学習評価 文例編 新しい学びに向けた新指導要録・通知表〈中学校〉』(共編著:ぎょうせい)、『「逆向き設計」実践ガイドブック』(共著:日本標準)、『新教育課程下で進める学校評価の取り組み』(共著:教育開発研究所)、『学力-いま、そしてこれから』(共著:ミネルヴァ書房)など。また、共著論文に『中学生の「学校適応感」や「逸脱願望の抑制」に影響を及ぼす要因に関する研究―学校生活と心理状態に関する実態調査を通して―』(京都教育大学教育実践研究紀要第3号)、『中学生の内面的理解による担任の関わりについて ―不登校や問題行動の実践事例―』(同第4号)など。

院生(2年次生) 藥師神 昂輝

私は学部時代の教育実習で、生徒と上手くコミュニケ-ションを図ることができず、生徒と人間関係を構築するうえで、自分自身の力不足を痛感しました。卒業後、すぐ教育現場に出て実践力を身に付けることも選択肢として考えましたが、教育に対する正しい理解や知識を学ぶことで、理論に裏付けられた実践力を身に付けられると思い大学院への進学を決めました。
 生徒指導力高度化コースでは、学級づくりや学級経営の課題を考える授業や実際の教育現場で起こった事例を取り扱う実践授業を通して、子どもたちと正しく関わり、信頼関係を構築していくための視点と方法を学んでいます。そのうえで、計10週間に及ぶ教職専門実習をおこない、学習した理論を実践のなかで生かしていくことで学びの深化に努めています。教職専門実習は長期間の実習になるため、学部時代の実習では得られなかった発見が多くあり、そこで得た成果と課題をより明確にすることで、更なる学びに繋がっていると感じています。また、同じように教師を目指す仲間たちとともに、学び合うことで得られる刺激も、自分自身の成長に繋がっています。
 今後は、これまでの学びで得たものをもとに、修了論文の研究に取り組みながら、理論と実践の照らし合わせをおこない、教育現場で生かせる実践力の向上に努めていきたいです。

第九期修了生 藤本 麻由
(山口県立公立小学校勤務)

私は別の大学の理工学部で数学を専攻していましたが、ぜひご指導を仰ぎたい教授がいらっしゃった生徒指導力高度化コースに進学しました。
 ロールプレイで子どもや保護者との関わり方を学んだり、情報を共有して支援方法を考えたりと実践的な学びを深め、2年間はあっという間に終了しました。ご指導いただいた先生と、同じ目標をもち支え合った仲間には、本当に感謝しています。
 また、在学中には、特別支援学校教諭の免許状も取得しました。この学びは、全ての子どもが安心して過ごせる学級作りをしたいという私の信念につながっています。
 自分の実践をふと立ち止まって考える時、大学院での日々を思い出します。これからも、子どもたちと真摯に向き合っていきたいと思います。

第八期修了生 池主 遼
(滋賀県公立高校勤務)

私の大学院2年間の学びはまさに「理論と実践の往還」でした。学級の一場面を想定した討論を中心に展開する実践的な内容や教育に関する理論を学び、教育現場で活きる思考力や判断力を磨きました。
 また、1回生のときに3週間、2回生で7週間の専門実習を行ったので、学部の実習と比べて、より深く生徒とも関わることができ、先輩の先生方の姿を間近で見られる「実践」的な学びができました。またそれらの学びを元に自ら課題を設定し、修了論文を作成しました。
 高校教諭となった今、置かれた環境で生徒や保護者、地域のニーズを捉え、生徒との関わりを大切に、楽しく充実した教員生活を送っています。

第七期修了生 細川 宙希
(富山県公立小学校勤務)

生徒指導力高度化コースでは、子どもたちに対する情報を共有し、チームとして対応していくことの大切さを学びました。学校の情報を共有し合い、チームで動くことは子どもたちが抱える問題への早期発見・解決へとつながります。私は、今富山県の公立学校で勤務しています。大学院で学んだことを生かして、周りの先生方とコミュニケーションを取り、子どもたちに対する情報交換をしながら日々チームとして子どもたちの指導にあたっています。情報交換をスムーズに行うためにも日頃から先生方とコミュニケーションを図り、報告・連絡・相談がしやすい教職員の絆を今後も深めていきたいです。
 これから進学を考えている皆さん、教職大学院で理論と実践を通して、教育に対する理解を深めましょう。ここでの経験は必ず、教師になったときの自信につながります。

第六期修了生 佐藤 愛
(兵庫県公立小学校勤務)

大学院時代、授業で理論を学び、専門実習を通して実践してきました。大学院に戻ると、先生や仲間と実践を振り返ることで考えを深めることができました。教員となった今、そのサイクルが止まることはありませんでした。私は、特別支援の校務分掌を持っていますが、研修会のときなどには大学院での資料をめくります。子どもの顔が浮かんだ上で、資料を見ると大学院時代とはまた違う視点で考えることができます。
 様々な先生と共に、多面的に子どもをみることが、いずれは子どものために活かされていくことを実感しています。目の前の子どもと関わっていく中で、これからも試行錯誤を続けることになりそうです。

第五期修了生 清水 貴幸
(京都市公立中学校勤務)

私がこの大学院に進学した理由は、大学4年間の学びだけで、現場に通用するのかという不安からです。大学院では、講義や実習を通して、多くの経験と知識を身につけることができました。また、課題を解決するための方法を学んだことで、何事も考えて行動する習慣がつきました。そして私がこの大学院生活で一番の財産に思うことは、校種や教科が異なる院生や大学院の先生、また現場でお世話になった先生方などの人との出会いです。今後もこの繋がりを大切にし、教育に携わっていきたいです。

トップ