科目「エネルギー科学Ⅰ」および「エネルギー科学Ⅱ」は第2期SSHに対してまだ実施していない。ここでは第1期SSHの成果の中で,第2期SSHに発展的に取り組めるよう構想したものも含めることにする。
1.教科指導方針について
①外部の研究機関および製造現場との連携
京都大学原子炉実験所を訪問し,施設見学や核分裂の講義を受けた。ただ,平成18年度は諸般の事情により運転を1年間停止することが決まっている。その他は国際性の導入の項目で述べる。
次年度の課題
これまでSSHクラスが1つであるため,これらの行事は授業の位置づけで行ってきた。しかしカリキュラムの変更にともない学期途中には行えない。他教科や理科小教科と打ち合わせて,休日や長期休暇の活用を計画しなければならない。
②高大接続
京都教育大学理学科物理学教室と共同授業を何度か行い,教育実習生を含む大学生もアシスタントに擁して実施した。特に「センサープロジェクト」は思い切って時間をかけ,探究の手法や研究成果の発表,実験技術の向上を図り,また現在の科学技術におけるセンサーの仕組みなどを学び体験した。
大学教員が高校で授業を行うときには,その時点でどこまで学習しており,何を学習していないかの判断に迷うとのこと。3年前に学習指導要領が新しくなり,一層混乱が生じやすい。従って高校での既習内容をよく伝えないと,新しいことがらを知らない概念で教えてしまうことになる。
またTAの教育大学学生にとっては通常の授業構成なら何とか理解できるだろうが,特別授業では特別の目標や高度なねらいを含んでおり,指導分担の明確化を事前に意識して打ち合わせる必要がある。そうでないと指導者が考えさせようと導いている時に結論を告げてしまうという失態につながるからだ。ただ相手が教職を目指していることから,その特別の目標や高度なねらいを説明して授業計画を納得させないとやりがいも出てこない。
次年度の課題
大学における実験は生徒に緊張感や充実感を与える効果があり,何らかの形で継続するのが望ましい。
③国際性の導入
平成16年度と平成17年度に取り組んだ「センサープロジェクト」は,英国の高校物理を研究している研究会と共同し,イギリスの物理教科書から教材を発掘し,日本の高校で実践できるように開発した。英国の生徒はどのようなカリキュラムの中に位置づけられているかに留意しながら,日本と英国の授業スタイルの差を生徒にも示しながら実施した。
また関連して,第1期SSHの学校設定科目である「科学英語」の教材として上述の教科書から「Sensing」の章をピックアップし,センサーの理解を深める展開ができた。日英の教科書の位置づけや内容の違いと共通点を感じさせることもできた。
次年度の課題
海外の教科書などに記載された実験を再現するような取り組みがあれば生徒の能動性をより引き出せるプログラムとなるのではないかと考える。
④科学クラブの充実( →第Ⅳ部に詳述する。)
2.各課題の年次ごとの進展目標について
(ア)「理科・数学教育を通じて豊かな国際性を育む方法の開発」
サイエンスワークショップ in 筑波
日英サイエンスワークショップが中止となり,冬休みに実施の「サイエンスワークショップ in 筑波」では素粒子研究所における新素粒子探索プログラムに関わりを持った。本校における関係生徒は1名であったが,素粒子についての基本的知識,今回の探索プログラムの概念特徴と使用法,研究者のコンピュータ環境などについて解説を行った。
後日該当生徒から「もしかしたら新素粒子の可能性がある粒子を見つけた」との報告をしてくれた。本当に新素粒子である可能性は低いだろうが,彼の興奮の度合いは並大抵のものではなかった。とても有意義で充実した時間になったようである。
理科及び英語科ALTとの共同授業による授業開発
SSHクラス2年生対象の学校設定科目「科学英語」では2学期の一定の期間,イギリスの高校物理教科書「Advancing Physics AS」から「Sensing」の章をピックアップし,内容を理解する授業に参加する機会を得た。これは該当クラスが9月に「センサープロジェクト」を実施したことと関わり,物理科から教材を提案した経緯がある。実際の授業では,文脈を理解するのに必要な人物の業績や目新しい専門用語,日本の学校教育では扱われない概念などの解説を行った。単なる英文の読み物とせず,すでに実験で使用したデバイスや物理概念が助けとなり,科学的内容を理解し,日英の物理教育の差異の一端を察知することに貢献できたと思われる。
(イ)「高大接続に資するカリキュラムとシステムの開発」
大学の授業へスムーズ移行できる高校カリキュラム
第1期SSHから重視していた目標であり,とても重要な目標との認識で取り組んでいる。現在,次のような種類の教材を開発した。取り組んだ結果,教科書以上のものを求めている生徒達には好評であったが,受験という観点からは役に立たないため受け身の姿勢しか持たない生徒も見られた。動機付けを工夫しないと良い結果が得られないのではないか。また反省点としては他教科(数学科や情報科)との連携が希薄であり,相乗効果が狙えなかった。
微積分を用いた物理
数学科の授業進度を配慮しつつ,可能な範囲で取り組んだ。当然必要以上に丁寧で段階を追った解説を行った。生徒の反応は歓迎する者が半数以上だが,受験面から拒否傾向の生徒もいた。興味を持たせる指導法まで含めた教材開発に留意すべきことを感じさせてくれた。以下に該当単元を列挙する。
・等加速度直線運動
・空気抵抗を受ける運動
・単振動
・距離の2乗に反比例する力によるポテンシャルエネルギー
・ポアソンの法則
・コンデンサーの充放電
・ビオ・サバールの法則
・放射性崩壊
・交流回路における電流・電圧・電力
など
対数グラフによるデータ分析
高校で扱う物理現象には,指数・対数・等比数列に関わる現象も多数存在する。いくつかを題材に授業を試みたところ,おおむね生徒の理解を得られ好評に感じた。以下に該当単元を列挙する。実験によって片対数であったり両対数であったりする。
・弦を伝わる波の速さ
・ケプラーの法則
・熱平衡に到る過渡現象
・音階と振動数
・波長の関係
・放射性核種の半減期 など
パソコンを利用した実験分析
測定そのものを各種インターフェースをつなげてパソコンで行う実験を開発してきた。単に従来の実験の置き換えでなく,測定周期の短縮(μ秒のオーダーも含む)が実現したり,従来は測定手段がなかったが,計測センサーの導入により実施可能となった実験もある。
実験で得たデータを表計算ソフトで分析することにも取り組んだ。単にグラフ化することを容易にしただけでなく近似曲線や近似直線を調べたり,大量のデータを効率よく処理して傾向をつかむことにも成功した。
ただ,いくら理系の生徒でもパソコンを苦手とする者もいる。また抜きんでている生徒がパソコンを独占する状況も一部あり,改善策が求められる。従って教科「情報」との連携により,1年生の「情報」の授業では2年次以降の理系選択に配慮した教材等を使用したこともあり,来年度は多少緩和される見込みである。
以下に該当実験を列挙する。
・音の振動数測定
・ボイルの法則
・熱平衡に到る過渡現象
・電池の起電力と内部抵抗
・交流回路の電流及び電圧の位相
・コンデンサーの充放電特性
・光が物質を透過するときの照度と厚さの関係
・ミリカンの実験
・テレビリモコンの信号分析
・ビデオポイントによる運動解析
など
(ウ)「より継続的なパートナーとしての大学ならびに外部機関との連携のあり方の開発」
国際性の涵養の領域( →他の部分で記述したので,ここでは割愛する。)
高大接続,課題研究の領域
高大接続は他の部分で記述したので,ここでは割愛する。課題研究については,第3学年SSHクラスの学校設定科目「エネルギー科学Ⅱ」(選択科目)において2学期に実施した。第2期SSHにおいても課題研究は重要なテーマと考えられるため,ねらいやテーマ,内容及び成果を報告する。
課題研究
ねらい:ある程度時間をかけ,未知のことがらや物理学史上重要な発見となる事項について探究的手法で実験に取り組む。班で話し合うことにも重点を置いて今回のプロジェクトを計画している。実験テーマは班毎に異なり,期間中に2~3つの実験を行う。さらに自己の研究を他者に伝え,理解を図ることも重要であり,発表会にも取り組む。
期間:11月4日(金)~12月2日(金)
対象:3年1組24人
内容:「物理探究実験」
テーマと内容:テーマと内容は次の通りである。
・リモコンの信号
現在の生活でリモコンは欠かせない道具である。リモコンから赤外線に乗って送られる信号(情報)はどのような規則性なのかを探究する実験。光センサーを用いたパソコン計測により調べた。まるで暗号を解読するような気分で取り組む反面,規則性が見いだせないときは迷宮に迷い込むようであった。
・ギターを調べる
ギターで音階を作るときの弦の長さや振動数の関係を測定を通して明らかにし,その規則性を求める。音センサーを用いたパソコン計測とストロボスコープを用いた計測で結果が一致すること,つまり異なる2つの方法で結果が一致すると信頼性が増すことも学んだ。
・交流回路の位相
交流回路の電流及び電圧の位相は座学で理論的に取り扱うが,大多数の生徒は実感が伴わない。しかし電流センサーや電圧センサー,各種デバイスを用いてグラフ化すると納得できる結果となった。
・光センサーを用いた実験
応答速度の速い光センサーにより,家庭用電球の照度変化,回転体の反射光の明暗変化による回転数測定,ガラスを重ねることにより透過光の照度が指数的低下をすることの発見などができた。
・動画を利用した運動の解析
ビデオカメラにより運動を撮影し,パソコンに取り込み,運動解析ソフト「ビデオポイント」によって速度や加速度をもとめ,複雑な運動の特徴やをつかもうとした。生徒が行った実験では,「水中を落下する小物体の運動」が成果を上げた。「ビデオポイント」による解析以外に表計算ソフトによるグラフの近似曲線をもとめたり,モデリングソフトで運動のモデル化を試み,モデルによる数値解析とよく一致する分析により,運動の本質に迫ることができた。
・電気素量測定
ミリカンの電気素量測定実験はノーベル賞実験でもあるため,生徒の期待は大きかった。購入した機器は高校生でも扱いやすく設計されており,また理論面も十分理解していたが,なかなか結果的に有効なデータが少なく困難な実験となった。なお膨大な量のデータを扱うためパソコンによる分析がとても有効であることを生徒は実感した。また10のマイナス19乗のオーダーとなる実験の意味もよく理解できた。
・比電荷測定
電子の比電荷とは電気素量(e)すなわち電子の電気量と電子の質量(m)の比である(e/m)。電気素量と組み合わせると電子の質量が求められるため,意義深い実験である。実験器具は扱いやすかったが精度があまりよくないため,結果に誤差が大きく含まれ生徒達は不満足のようであった。しかしこれも10の11乗というオーダーは求められており,小数部分に目を奪われすぎず,べき乗にも目を向けるべきとの指導を行い,多少救われたようである。指導者側としては実験技術をもっと具体的に教えるか,彼らに考案させるか迷った。後者にしたところあまり工夫が見られずに芳しくない実験結果となった。指導方法について改善の余地があるだろう。
・電波の性質
電波の定性実験中心の機器であるため,当初はあまり面白みがなかった。しかしドップラー効果による速度測定が可能であったので実験を促すと,一転とても探究にふさわしい実験ができた。オシロスコープによって電波波形を観察し,波形の意味について仮説を立て,検証実験をして討論し仮説を修正するという弁証法的展開となった。最終的に満足する結果を得られ,また電波のドップラー効果について理論的にも納得でき,満足度は高かった。
・CDやDVDによる回折光分析
CDは反射型回折格子であり,入試問題にもよく出るほど有名である。実際にレーザー光を用いて実験方法も考えさせながら取り組んだ。結果も良好な値を得ることができた。DVDでも同様の手法で取り組んだところ,不思議な干渉縞を発見した。しかし時間不足で十分な探究ができなかったのが心残りである。
成果:高校物理のすべての学習を終えてから取り組んだため,実施時期が大学受験前となり生徒への負担があった。提出レポートやアンケートでは,「答がない事象に取り組むことで,勉強ではなく学問をしている気がした」,「自分で考えて実験をすることによってとても理解が深まった」,「実験をすることでその理論がよく分かるようになった」のような代表的な意見に現れるように,SSHならではの生徒の体験及び成長が見られ,彼らも自覚するようになった。なお事後アンケートによれば,課題研究は通常の他の実験よりも生徒評価が高く,また年間を通じて探求心や好奇心,考察力,レポート作成能力などの向上を挙げている生徒が目立った。
(エ)「教科指導からの発展としての自主的創造的活動の開発」
京都大学VBL関西テクノアイデアコンテストについて。年度当初は年間授業構想にあったが,実施要項の発表伝達が遅いため,夏休み前からの計画的な指導が構成できなかった。生徒の意志に任せる形にしたが応募は1件のみで残念である。
(オ)「今日的課題を解決する力を有する理科・数学教員の養成プログラム開発」
京都教育大学院生・学生がSSHの授業にTA等として参加し,教育現場における良質な探究学習・探究活動の実践に参加するプログラムの開発
2年生SSHクラス対象の「センサープロジェクト」では京都教育大学の教員とともに4回生の学生がTAとして指導に参加した。教材の理解は十分にしている学生なので安心して取り組めた。なおその時期は教育実習期間であったため3回生の実習生にも補助として手伝ってもらえた。彼らも大学の物理実験の中で取り組んでおり,実験の流れはよく知っていたので,スムーズな進行につながった。彼らは,本校生徒が電流回路の教材であるセンサープロジェクトを理解し使いこなしていく過程を観察することができ,生徒理解に役立ったのではないかと思われる。
(カ)「成果の公開・共有,評価・検証と研究内容改善への取り組み」
京都府の各教科の教育研究団体での報告
京都理化学協会の会誌に「モデリングソフトと授業実践報告」と題して,SSHでの取り組みを7ページにわたり掲載していただいた。
公開研究会で成果を発表し評価を求める
物理教育学会の学会誌VOL.53,No.4 2005に,京都教育大学物理学教室の谷口氏と共著で研究論文「アドバンシング物理『センサープロジェクト』の実践報告」を掲載していただいた。