1.教科の指導方針について
①科学と哲学
| 4月 | 科学と哲学を学ぶ意義 科学と哲学の違い |
| 5月 | 哲学とは何か 哲学と科学は対立するのか 科学の基礎としての哲学 |
| 6月 | 西洋近代哲学にみられる価値の分析(生徒発表) 人間の尊厳―近代とは何かを学ぶ 自然と科学技術―学問の方法を学ぶ |
| 7月 | 西洋近代哲学にみられる価値の分析(生徒発表) 民主社会と人間―社会契約の考えを学ぶ |
| 8月 |
| 9月 | 西洋近代哲学にみられる価値の分析(生徒発表) 幸福と自己実現―近代の幸福観,自由観を学ぶ 人間性の回復を求めて―主体性を回復する思想を学ぶ |
| 10月 | 西洋近代哲学にみられる価値の分析(生徒発表) 現代のヒューマニズムー人類愛を学ぶ 新しい知性と現代への批判―新しい知の方法を学ぶ |
| 11月 | 現代の科学技術とその限界―生命倫理・地球環境 |
| 12月 | 現代の科学技術とその限界―先端医療・核兵器 |
| 1月 | まとめ |
「学校設定科目である『科学と哲学』を,既存の科目の『倫理』をベースにして,哲学的思考と科学的思考の違いや真理探究の方法などを追究させ,現代の当面する生命倫理などの課題に意思決定ができる力を培う。」という観点から授業を進めた。
学校設定科目として設置された『科学と哲学』のねらいとしては「科学技術の発達と個人のあり方,社会発展と科学技術の関係を理解する」ものとされている。それは,本校の研究のねらい「C.科学技術と社会や自然環境との関係を視野に入れて自らの考えを築く生徒を育てる」というものと符合するものであり,さらにいえばこのねらいは「広い視野に立って,現代の社会について主体的に考察させ,理解を深めさせるとともに,人間としての在り方生き方についての自覚を育て」(高等学校学習指導要領)という公民科の目標とも相通ずるものである。
ここで,本年度の取り組みを具体的にふりかえりたい。
ア.文献利用による概念理解
この授業では,科学の特徴を「事実がいかにあるかを,そのあるがままに記述するところにあり,その事実をそのままとらえることが科学的知識のめざすところである」ととらえ,ここにこそ科学の限界があると考えた。それは価値の問題には何らの解答を与えないということであり,ここで事実の問題と価値の問題の違いを再確認する,つまり前者は「いかにあるか」ということであり,後者は「いかにあるべきか」ということを考えることになる。このことを『哲学のすすめ』(岩崎武雄 講談社現代新書)を利用し「哲学と科学は対立するのか」という設定で,(1)目的と手段―行為に対する科学的手段の意義,(2)哲学の方法―直観と反省,科学の方法―分析と実験というように「科学」と「哲学」との違いや特長について文献を利用して理解を深めた。また,科学の基礎としての哲学という捉え方もして,「価値からの自由」という立場を科学はとれるのかという学習も深めた。
イ.教科書『倫理』を利用して
教科としての『倫理』はいわゆる哲学思想を扱っており,その内容をふまえ,さまざまな問いに対して生徒が発表するいわゆるゼミ形式で授業を進めた。(これには,今年度わずか6名という少数講座であったという要素が大きい。また,授業はテーブルでみんなの顔が付き合わせることができる小会議室を使用した。)
いくつかその問いをあげると,「ソクラテスの死の意味」「キリスト教はなぜ今まで信じられ続けているのか」「近代の思想的条件は何か」「デカルトは自然をどうとらえているのか」「カントが考えたよい行為とは」「ベンサムとミルの幸福感の違い」などがあげられる。『倫理』には西洋思想だけでなく,東洋や日本思想も含まれており,年度後半は講義形式でも授業を進め,全範囲を終了した。
ウ.現代的課題の扱い
生命倫理に関して,『日本の論点2005』(文芸春秋)を利用し,「ヒト胚利用は許されるか」というテーマで賛否両論の論説文を,また同資料より「新エネルギーを推進すべきか」というテーマでも自分の立場を明確にさせ討論できる授業とした。このような「生命倫理」や「環境倫理」に関しては,結論が出る問題ではなく今後も意欲的に考えていける姿勢を持たせるというオープン・エンドの展開をこころがけた。また,積極的に不正義や公正について発言している経済学者アマルティア・センについての特集記事(京都新聞 平成17年11月3日「不正義に抗する学問とは」)を利用し,合理的な市場原理一辺倒の社会に対してもう1つの別の可能性もあるのではないかという問いかけも行った。
エ.生徒の関心や意欲を引き出すために
大学が近くにあるという利点を生かし,高大連携も進めた。大学には専門の哲学の先生もおられ,高校生に大学の授業を聴講させた。(平成17年6月17日)内容は,日本近代思想における柳宗悦というテーマであり,私からみても難解だったが,生徒の感想では「大学での講義がまるで自分の実際に知っている人について話しているみたいだった。社会の風潮がいかに人間個人の思想に影響を与えたのかということについてわかった」などと概ね好評だった。また,プロジェクトX『衝撃のカミオカデン』のVTR(2003.6月放映)視聴し,英文資料「Interview in English19 小柴昌俊」(NHK英会話教材より)を参考にしながら科学者小柴氏にせまることにした。特にテレビ番組の視点がそうなのだが,人の成功は才能や運だけではなく,強い信念やそれを支える仲間であるということもわかったのではないかと思う。
最終試験のテーマは「科学の進展に哲学はどう貢献したか」という論述問題を課した。(400字)「ハーバーマスを引き合いに出し,対話が科学と哲学の橋を渡しているように思われる。科学の進展のための対話で考え方の差異が生じ,それを哲学が新しい考え方でクリアする」「デカルトの思想である自然は支配されるものだという考え方が科学を大きく進捗させた」と指摘する者,「哲学は科学の発展を妨げてきたが,一方時代にそった哲学者がいなければ,科学は使いこなせないかもしれない」と懸念を表明する者など,科学と哲学の双方について理解を深めた意見を述べている。
②現代社会
| 単元名 | 指導内容とねらい |
| 科学技術の発達と生命 | 生と死の問題と現代医学についてや,脳死と臓器移植,遺伝子操作,出生前診断などの具体的課題を扱う。このような現代の課題について科学的見方とともに,生命倫理という観点も重視し人間の在り方生き方まで考察できることを目標とする。そのためにディベートや討論,発表形式の授業形態を工夫する。 |
| 民主社会の倫理 | 自由や平等,人間の尊厳について,自己決定権という新しい考え方もふまえて,よく生きるということを考察させる |
公民科では,『現代社会』や『政治経済』など社会科学をその対象としており,現実に生起している問題や課題を科学的に考察させると同時に,自由や平等という哲学的な価値観に基づいて各自で捉え直すことを試みる。価値は当然,多様なものであるが,相互に交流させることにより民主社会の倫理に近づくものであると考えている。
具体的な実践は主に3学期であり,今後「現代社会に生きる私たちの課題」について生徒自身の主体性を生かす「構成劇」の実施をすることによって,クローン人間や出生前診断,高齢者の介護,地球環境保全など生命倫理,環境倫理などの価値判断を劇というロールプレーを実践させることによって個々人に追究させていく。