あらすじ*
この作品は、昭和三七年五月から十二月まで、「小説中央公論」に連載されたものである。
この作品は十五編の作品にわかれているが足で小まめに、見聞きした資料をもとに、独自の史観をふまえて、それぞれに味わいのある描き方をしている。
*「油小路の決闘」は、新撰組の批判派である伊東甲子太郎らの悲劇的な結末に至るまでを「耳をあらうくせのある」新撰組取締役篠原泰之進を主役に描いている。
*「芦沢鴨の暗殺」水戸天狗党の生き残りで、狂人的天才剣士芦沢鴨が、近藤、土方らの黙契によって暗殺される有名な話だが、それに葵屋太兵衛なる大阪商人をからませて味わい深くしている。
*「長州の間者」は、京都浪人深町新作が、その腕をかわれて新撰組に入るが、深町は女とのくされ縁から、長州の間者となり、沖田総司に見破られ、「人斬り主膳」こと松永主膳に斬殺される話。
*「池田屋異聞」は、有名な池田屋騒動を、「いざ勝負となると、相手を食い殺したいほどの異常な闘争心をわかせる」山崎蒸(すすむ)を主役に描いたもの。
*「鴨川銭取橋」は、隊の兵学師範であった武田観柳斎が、薩摩屋敷に出入りするようになったことから、銭取橋で、剣術指南役齋藤一に斬殺されるまでの話。
*「虎徹」は、近藤勇の愛刀虎徹にまつわる由来話を、やや皮肉をまじえて描いた「日蔭町虎徹」物語。
*「前髪惣三郎」は、加納惣三郎という女と見間違えるような美貌の剣士が、「おかま」騒動をおこし、土方歳三に斬られるまでの話。
*「胡沙笛を吹く武士」は、胡沙笛という尺八に似た音色の笛を吹く隊士鹿内薫の悲劇を描いたもの。
*「三条磧乱刃」は、新撰組で最長老(と言っても四三歳)の井上源三郎と、芸州浪人国枝大二郎の奇妙な絡み合いをつづったもの。
*「海仙寺党異聞」「沖田総司の恋」「菊一文字」は、若き天才剣士沖田総司を主役にした、異色の物語。
*「槍は宝蔵院流」は、宝蔵院流の槍の使い手谷三十朗の話。
*「弥兵衛奮迅」は、薩摩藩脱藩浪士富山弥兵衛の話。
*「四斤山砲」は、出羽浪人大林兵庫という不可解な人物の新撰組のかくらん物語。
以上十五編、いずれも、人物にまつわるエピソードがおもしろいし、個性が十分に生かされていて、鮮やかである。
司馬遼太郎はかつて、「作家と一般の読者との違いは、わずか指先にのった塩のあるなしにすぎない、その塩を大切にしなければすぐ失われてしまう。それを錯覚して自分はエリートだと思い込むほど作家にとってのつまずきはない」と語り、それをまた自戒の言葉としているそうだが、その謙虚さが、彼の文学の魅力となっているのだろう。
彼は常に食欲に歴史をさまぐり、その人物を分析し、今日的なメスを加えいぶきをあたえて描く希有の歴史小説作家である。